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2026.01.05|CEOコラム

178万円というイリュージョン ~CEOコラム[もっと光を]vol.309

 新年あけましておめでとうございます。今年も本コラムにお付き合いいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。今日1月5日から仕事始めということで、2026年最初のコラムをお届けします。

 

 この正月休みに昨年末に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」をじっくりと眺めてみたのですが、読み進める中で「物価高への対応の観点から云々」として強調されている「課税最低限を 178 万円まで特例的に先取り」するとの主張がひときわ目を引きます。基礎控除と給与所得控除の引き上げにより、一定の条件を満たす給与所得者については、年収が178万円まで所得税が課されない仕組みであり、かねてから議論されてきた「103万円の壁」が動いたという事実は確かに象徴的で、数字だけを見れば大きな前進のようにも映ります。

 

 しかし、この178万円という数字が、多くの働く人々の実感に即した線引きかと問われると、首を傾げざるを得ません。基礎控除と給与所得控除という属性の異なる控除額を単純に合算した結果、特定の年収帯に限って所得税の課税所得がゼロになるという構造に過ぎないからです。178万円を超えれば、所得税は従来どおり発生しますし、住民税については、そもそもこの水準よりかなり低い段階から課税されます。「178万円まで税金がかからない」という説明は、制度の一部分を切り取っただけの誤解を招く表現と言わざるを得ません。

 

 現実の家計により大きく影響するのは、むしろ社会保険料です。106万円や130万円といった基準を超えれば、健康保険料や厚生年金保険料の本人負担が生じ、所得税よりも先に、しかも確実に手取りを圧迫します。さらに、扶養控除や配偶者控除の判定基準は従来のまま据え置かれ、給与所得者であれば給与収入が122万円を超えると扶養から外れます。本人の所得税がゼロであっても、世帯全体では控除の消失によって税と社会保険料の負担が増えるのです。このような矛盾する構造は、制度を深く理解していない人ほど影響を受けやすいという意味で、不誠実と言われても仕方がないでしょう。

 

 こうして整理してみると、今回の改正は「壁を取り払った」というより、「壁の位置を少しずらしただけで、却って見えにくくした」と言う方が実態に近いように思われます。所得税の非課税ラインだけを強調すれば分かりやすいメッセージになりますが、その背後では住民税と社会保険料が確実に存在感を増しています。新しい年を迎え、働き方を考え直そうとする人々にとって、この改正は果たして福音と言えるのでしょうか。数字のインパクトとは裏腹に、制度全体の狙いは判然とせず、眺めるほどに違和感しか残りません。

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