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2026.06.15|前CEOコラム

京都産ではない京菓子、国産ではないトヨタ車 ~前CEOコラム[もっと光を]vol.332

 多くの人は、土産物店に並ぶ京菓子を「京都で作られたお菓子」だと思って買い、街を走るトヨタ車を「国産車」だと信じています。また、ベンツやBMWを見れば、当然のように「ドイツ製」だと思うでしょう。ところが現実には、京菓子の中には京都府外の工場で生産されているものがあり、トヨタ車にはアメリカやタイなどの海外工場で製造された車種があります。ドイツブランドのSUVの多くはアメリカ製です。品質に問題はなくても「名前」と「実際の生産地」が一致していないことに、意外な思いを抱く人も多いのではないでしょうか。

 

 もちろん、これは名前を偽っているわけではありません。企業活動が国境を越えて展開される今日では、企画、開発、製造、物流をそれぞれ最適な場所で行うことはごく自然なことです。京都の老舗が府外工場を活用することも、トヨタやベンツが世界中に生産拠点を持つことも、品質と効率を両立させるための経営判断です。ブランドとは、もはや「どこで作られたか」を示す印ではなく、「誰が責任を持って世に送り出しているか」を示す看板へと変わったのです。

 

 では、消費者はその看板だけを信じていてよいのでしょうか。商品の裏面を見れば、製造者や原産国などが表示されていますが(クルマの場合も車台番号を見れば生産国が分かります)、多くの人はそこまで意識せず、「京菓子だから京都産、トヨタだから国産、ベンツだからドイツ製」と無意識に結び付けて考えています。看板は複雑な情報を簡単に整理する便利な道具ですが、それはあくまで判断の入口にすぎません。その向こう側にある実際の姿を知ろうとすることで、私たちは初めて商品の来歴や企業のものづくりを正しく理解できるのです。

 

 考えてみれば、これは商品だけの話ではありません。私たちは人を見るときにも、肩書きや出身校、有名企業の名前といった「看板」を手掛かりにしています。看板は信頼の目印として社会に欠かせないものですが、ときにその印象が本質を曖昧にしてしまうこともあります。京都産でなくても京菓子、国産でなくてもトヨタ車、アメリカ製でもドイツ車。そんな時代だからこそ、名前やイメージを鵜呑みにせず、その向こう側にある本質や責任の所在に目を向けることが、本当に賢い消費者であり、賢い情報の受け手であるために必要な姿勢だと思います。

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