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2025.12.15|CEOコラム

もはや資本金の額に意味はない ~CEOコラム[もっと光を]vol.306

 上場会社であっても資本金を「1円」まで減らすことが制度上可能であるという事実は、みなさんの肌感覚とは大きく異なるのではないでしょうか。会社の資本金といえば、信用の源泉であり、経営基盤を象徴する数字だと理解されてきたからです。しかし、会社法は、資本金の額をそのような“信用の物差し”とは見ていません。資本金1円の上場会社が成立し得るという現実は、資本金という概念がもはや重要視されていないことを物語っています。

 

 そもそも会社法における資本金は、分配可能額計算、純資産把握、債権者保護、開示制度といった計算規制を動かす技術的なパーツに過ぎません。資本金が1円であっても、これらの制度は問題なく機能します。つまり会社法は、資本金の額そのものに企業の信用形成効果を期待してはいないのです。資本金が小さいからといって制度が揺らぐことはないという構造自体が、資本金を“実質的価値を持つ指標”と扱わない立法思想を示しています。

 

 しかし、企業の信用評価が不要になったというわけではありません。ここで登場するのが市場です。上場企業では、投資家や取引所が資本金ではなく、純資産額、キャッシュフロー、継続企業の前提、監査意見、ガバナンス情報などを手掛かりに企業を評価します。つまり信用保護あるいは信用保証の主役は資本金から“市場規律と開示制度”へ完全に移っているのです。資本金1円で純資産10億円の会社が成立し得る一方、資本金1億円で債務超過の企業が存在するという現実は、資本金が実体的指標としての機能を失っていることを如実に示します。

 

 以上を踏まえると、現行会社法の思想は明確です。資本金はもはや会社の実力や信用を示す数字ではなく、単に制度運用のために設置された“会計上の一項目”に過ぎないのです。資本金の大小は会社法にとって本質的関心事ではなく、企業の健全性を測るのは市場と開示に委ねられています。資本金1円の上場会社が容認され得るという事実は、資本金という概念が象徴性すら失ったことを示しています。もはや資本金の額自体に意味を求める時代ではなく、企業を見る目は、その実体に向けられるべきなのです。

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