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2025.12.22|CEOコラム

同床異夢-夢から覚めたときのことを考えておいた方が良い ~CEOコラム[もっと光を]vol.307

 同床異夢。新明解国語辞典によると、「同居していながら考えていることはそれぞれ別であること」とあります。与党に擦り寄る某政党は、先週19日に公表された令和8年度税制改正大綱の内容を自らに都合の良い夢としてみているようです。同党はかねてからの主張通り「年収の壁を178万円に引き上げた」と声高に成果を強調していますが、大綱の内容を丹念に読めば、その自己評価には大きな違和感を覚えます。数字だけを見れば確かに「178万円」は登場します。しかし、それをもって「公約を実現した」と言い切るのは、かなり無理筋の解釈です。

 

 今回の大綱における178万円は、基礎控除や給与所得控除を物価調整名目で引き上げ、さらに特例的な上乗せを組み合わせた結果として“そう見える”水準にすぎません。一律に178万円まで非課税となる明快な制度が導入されるわけではなく、控除の構成は所得階層ごとに異なり、むしろ制度は複雑化しています。この政党が繰り返し訴えてきた「誰にも分かりやすい年収の壁の撤廃」とその実現を通じて「みんなの手取りを増やす」とは、制度の姿も思想も大きく異なるものなのです。

 

 さらに冷静に振り返れば、当初同党が掲げていたのは、住民税も含めた抜本的な減税であり、財政規模も数兆円単位とされていました。それが大綱においては、減税規模は大幅に圧縮され、対象も限定的なものになっています。それでも「178万円」という象徴的な数字が残ったことで、あたかも当初の主張が貫かれたかのように小躍りして喜ぶ様子は、責任ある政党の姿勢とは思えません。数字の一部が一致したことと、政策の本質が実現したことは、本来まったく別の話のはずです。

 

 結局のところ、この政党は与党と同じ寝床に入れたことに安堵し、「壁を壊すことができた」という達成感に満ちた夢を見ているのでしょう。しかし現実の税制は、壁の構造を残したまま、その位置を調整しただけにすぎません。税制はスローガンではなく、制度の積み重ねです。専門的に見れば見るほど、今回の改正を「公約の完全実現」と評価するのは笑止千万であり、同床異夢とは、まさにこの状況を的確に表す言葉です。夢から覚めたとき(いや、覚めないのかもしれませんが…)、現実とどう向き合うのかが楽しみです。

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