企業集団の実態を表す「連結財務諸表」が制度化されてから50年を迎えました。しかし、半世紀を経た今なお「連結」という用語に違和感を覚える人は少なくありません。筆者自身、どうしても鉄道車両をつなぐ「連結」を連想してしまい、企業集団の財務情報を包括的に示すという本来の趣旨と言葉の印象がしっくり一致しないと感じています。世間では定着した用語ですが、初めて会計を学ぶ学生諸君や一般の財務情報の利用者にとっては、概念を直観的に掴みにくい名称なのではないでしょうか。
そもそも連結財務諸表の目的は、親会社の支配下にある企業集団を単一の経済主体として認識できるようにすることにあります。内部取引や未実現損益を消去し、各社の資産・負債を組み入れて再構成する作業は、単に企業同士を“つなげる”ものではありません。企業集団を一つの姿にまとめ直すプロセスであり、その意味では「統合」という日本語のほうが、本質をより的確に表現しているように思えるのです。一方で「連結」という用語は、どうしても横に並べてつなぐイメージを想起し、親子関係や支配・被支配関係といった企業集団の実態を十分に反映しているとは言い難い面があります。
現在の連結理論は支配力基準に立脚し、企業集団を統一的な経済体としてとらえるアプローチを採用しています。これはまさに「一体化して固める」という意味をもつ英語の consolidate の概念に対応しています。だからこそ、英語では「Consolidated Financial Statements」というのです。初学者に説明するときも「企業を統合して財務諸表を作ります」と言えば自然に理解が進むのに対し、「連結します」と説明すると「単に並べるだけなのか」という誤解が生じやすいことも否めません。
とはいえ、すでに「連結財務諸表」は定着した用語であり、その変更は現実的ではありません。しかし、言葉は概念の入口です。誤解を生みにくい名称のほうが、制度に対する理解を深めるうえでは本来望ましいはずです。企業集団を一つにまとめるという制度の本質を踏まえると、「統合財務諸表」という名称のほうが、会計的な意味合いと日本語としての語感の両面で適切だったのではないかと思っています。例えば、economics を「経済」と訳したのは慧眼でしたが、一方で「economy=節約」の意味を曖昧にしてしまったように、訳語の選択は概念理解に少なからず影響を与えることを知っておきたいのです。