今年は午年です。馬は勢いよく駆ける象徴である一方で、進むべき道を見極めながら前に進む存在でもあります。年初にあたり、午年にちなんで「馬」にまつわる言葉から、経営における意思決定について考えてみたいと思います。経営者は日々、判断を求められ、その結果は月次や年度といった短い時間軸の数字で評価されがちです。ただ、その判断が本当に正しかったかどうかは、すぐには分からないことも少なくありません。だからこそ、年初という節目の時に評価の物差しを見直してみる必要もあるのではないでしょうか。
「人間万事塞翁が馬」は、人生の吉凶禍福は簡単には判断できないという教えです。経営の現場でも、失敗に見える投資や、遠回りに思える人材配置が、後になって大きな成果につながることがあります。反対に、短期的な成功が、長い目で見ると組織の歪みを生む例も珍しくありません。「塞翁が馬」が示しているのは、判断を先送りすることではなく、失敗に見える期間を引き受けながら、結果が熟すのを待つ覚悟です。数字として示される途中経過を冷静に確認することによって、目先の評価に振り回されない姿勢が求められるのです。
宗教的背景は異なりますが、この考え方はキリスト教の教えとも通じるものがあります。新約聖書には「神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださる」(『ローマの信徒への手紙』8章28節)という一節があります。人間の理解を超える出来事であっても、無意味なものはなく、後になって意味づけされ、評価されていくという視点です。「塞翁が馬」が評価を急がない知恵だとすれば、聖書の言葉は「長い時間軸で信じ続ける姿勢」を示していると言ってよいでしょう。
経営とは、常に不確実性の中で意思決定を重ねる営みです。すべてを見通せる経営者はいません。しかし、判断の真価は、短期の数字ではなく、時間をかけて検証されるものでもあります。馬が道を選びながら進むように、ときに立ち止まりつつも、進む方向を信じて歩み続けることが大切です。私たち職業会計人に求められているのも、目先のことに一喜一憂するのではなく、経営者とともに長い時間軸で意思決定を支えていく姿勢ではないでしょうか。今年一年、その視点を忘れずに舵を取っていきたいと思います。