先日、某日刊紙のコラムは、「経済学の訓練を受けていない人」の傾向として、①視点が短期的である、②発想が部分均衡的(変化した部分だけを考慮し、他は不変と考える)である、③定量的な感覚に欠ける、と指摘しました。一方、「経済学の訓練を受けた人」は、①目先にとらわれた政策が、長い目で見ると必ずしも良い結果をもたらさないことを知っている、②政策の影響は、広い範囲で考慮する一般均衡的発想で検討しなければならないことを理解している、③政策の効果は、コストとの兼ね合いで定量的に評価されるべきであると考えている、と看破しました。
50年前とはいえ、大学で経済学の訓練を受けた一人として、上記の見解に大きく頷くとともに、最大限の賛辞を送りたいと思っているのですが、最近議論が喧しい「消費税減税」についても、「経済学の訓練を受けた人」の視点で検討するべきであると痛感しています。ともすると選挙目当てのポピュリズムに堕した愚策も声高に叫ばれる中、慎重かつ冷静に判断しなければならないのが「税」をめぐる議論だからです。
例えば、食料品に対する消費税率を1年間に限ってゼロにするという意見があります。財布に優しく語りかける聞き心地の良い意見ですが、「短期的」な発想で「部分均衡」しか考えていません。税率を下げる直前に「買い控え」が発生し、元に戻す直前に「駆け込み需要」が発生することなど誰の目にも明らかです。さらに、レジシステムの改修といった小売りの現場が負担を余儀なくされるコストに見合った効果はどれほどなのかといった定量的な評価の視点が欠けています。
さらに、1年経過後に税率を元に戻す際のフリクションも想定しておかなければなりません。消費税の税率引き上げに関しては、過去に何度も延期を繰り返した歴史がありますから、1年経ったからと言ってすぐに元に戻せるでしょうか。政治が得意とする「先送り」や「激変緩和措置」などによって混乱することが容易に想像できます。ここは、①長期的視点、②一般均衡的発想、③定量的評価といった「経済学の訓練を受けた人」による真摯な議論が望まれるところです。