去る5月16日、政府は年金改革法案(正確には「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」)を閣議決定し、国会に提出しました。この法案は、多様化する働き方や家族構成に対応し、年金制度の持続性と公平性を高めることを目的としています。主な改正点としては、社会保険の加入対象の拡大(いわゆる「106万円の壁」の撤廃)、在職老齢年金制度の見直し、遺族年金制度の男女差解消、厚生年金の標準報酬月額上限の引き上げ、私的年金制度(iDeCoなど)の加入年齢拡大などが挙げられます。
その中で注目しておきたいのは、短時間労働者の社会保険加入要件の見直しです。従来、週20時間以上の労働に加え、賃金要件や企業規模要件がありましたが、これらが段階的に撤廃され、2035年までにすべての企業規模で適用される予定です。これにより、パートタイム労働者や非正規雇用者の年金加入が進み、将来の年金受給額の増加が期待されます。また、在職老齢年金制度では、年金と賃金の合計額が月50万円を超えると年金が減額されていましたが、この基準が62万円に引き上げられ、高齢者の就労意欲を後押しすることを狙いとしています。
しかし、この法案には問題点も指摘されています。当初、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする案が盛り込まれていましたが、厚生年金受給者からの反発や参院選への影響を懸念する声が自民党内で強まり、最終的に削除されました。これにより、特に就職氷河期世代など低年金リスクの高い層への支援策が先送りされる形となり、野党からも批判される中、修正協議の対象にもなっているようです。
今回の年金改革法案は、制度の持続性や公平性を高める一方で、政治的な配慮から重要な支援策が削除されるなど、課題も残しています。今後の国会審議では、低年金層への具体的な支援策や、制度改革の全体像について、より丁寧な議論と説明が望まれるところです。国民の将来の生活安定のためにも、短期的な政治的判断に左右されず、長期的な視点での制度設計が必要だと考えるのは筆者だけではないと思います。