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2025.08.04|CEOコラム

DX時代の会計不正と監査法人の責任 ~CEOコラム[もっと光を]vol.287

 先月25日、AI関連企業として急成長を遂げていたはずの株式会社オルツにおいて、約119億円にも及ぶ架空売上の計上という重大な会計不正が明らかとなりました。公表された第三者委員会報告書によれば、同社は2021年12月期から2024年12月期まで、実体のない取引による架空売上を計上していたのです。外部からの投資や信用を得る目的で企業価値を過大に仮装するという極めて意図的かつ組織的な不正であり、その背景には経営陣の強い関与があったとされています。

 

 今回の会計不正は、AIサービスというデジタル製品の特性を悪用した点が特徴と言えます。物理的な納品を伴わず、ユーザーアカウントの発行や利用といった行為を根拠に収益を計上するという特性が一因となっています。報告書では、実在しない法人名義でアカウントを発行したり、内容に意味のない形式的なライセンス契約書が作成されていた事実が詳らかにされています。こうした実体のない取引が露見しなかった背景には、DX化が進む一方で、売上の実在性や収益認識の妥当性を評価する監査手法に脆弱性があったことも否定できません。

 

 さらに根深い問題は、同社の不正が一部の担当者によるものではなく、経営陣が主導する組織的な犯罪行為であったという点です。報告書では、代表取締役自らが売上目標を達成するために架空契約を主導し、社内での懸念の声も封殺されていた実態が明らかになっています。内部通報制度は形骸化し、取締役会や監査役会も実質的な牽制機能を果たしていませんでした。これは、スタートアップ企業にしばしば見られる成長ストーリー優先の文化が、ガバナンスの基本原則を蔑ろにした典型例といっても良いでしょう。

 

 この事件から得られる最大の教訓は、企業の革新性に注目が集まる一方で、基本的な企業統治や監査の機能が軽視されてきたことの危険性です。そして、こうした不正を看過した監査法人の責任は極めて重く、行政処分は不可避であると考えられます。報告書では、売上の急増や契約内容の不自然さに対して職業的懐疑心を欠いた形式的な監査に留まっていた点が厳しく批判されています。結果として、監査制度そのものへの信頼を大きく毀損させたことは、監査に携わる同業の士として残念でなりません。

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