近年、企業のガバナンス強化が叫ばれているにもかかわらず、会計不正の発生件数は減るどころか、むしろ増加していると聞いて驚くほかはありません。先週7月24日に日本公認会計士協会が公表した「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」によれば、2024年度に把握された上場会社の会計不正件数は過去5年間で最多となり、特に売上の過大計上が全体の半数以上を占めているとされています。会計不正の温床には、達成困難な業績目標の設定や経営トップによる過度なプレッシャーの存在、そして内部統制制度の形骸化といった構造的問題が依然として存在することを物語っています。
特に印象的だったのは、不正の発見端緒における「内部通報」の増加傾向です。これまで多かった「監査法人による指摘」に加えて、社内告発やメディア報道によって不正が明るみに出るケースが増えたことは、社会全体の監視機能が強化されつつある証といえるでしょう。しかし一方で、「内部統制報告制度における有効性評価では見抜けなかった不正」が一定数存在するという指摘は、制度設計そのものの見直しを迫るものです。単なる文書的なチェックにとどまらず、実質的な業務プロセスへの監視が重要になっているといえます。
ところで、調査結果の中で明らかにされている「経営トップ自らが不正に関与していたケースが少なくない」という事実には改めて驚くほかはありません。このような状況では、たとえ制度上の内部統制や監査手続が整っていても、その有効性は著しく損なわれます。監査役会や監査等委員会といったガバナンス機関の実効性も改めて問われなければなりません。不正の根絶には、制度設計以上に「人」に依存する部分が大きいという現実が浮き彫りになったと言うべきでしょう。
会計不正は、単なる法令違反ではなく、企業文化や業績至上主義が生む「構造的な病理」ともいえるものです。今後求められるのは、形式的な制度整備にとどまらず、現場レベルでの倫理教育やリスク感度の醸成、さらにはAI等の技術的支援による異常検知機能の高度化でしょう。私たち会計専門職が果たすべき役割は今まで以上に重くなっていますが、それに応える備えを怠ってはならないと痛感しているところです。