過日、監査法人の関与先が開設した大型複合施設「長崎スタジアムシティ」 の施設視察をかねて当該施設で研修会を実施しました。そして、翌日のエクスカーションで端島(通称「軍艦島」) を訪れ、幸いに波が穏やかだったので上陸することができました。同島は、かつて海底炭鉱によって栄え、1960年(昭和35年)の最盛期には人口が5,000人を超え、人口密度は世界一だったそうです。しかし、1974年(昭和49年)に鉱山が閉鎖されると島は無人島になり、放置された高層RC造アパート群は、風雨や塩害に晒され約半世紀の時を経て廃墟と化しました。
ご承知の通り、減価償却資産の耐用年数については、所得税法施行令や法人税法施行令の指示するところに従って「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で詳細に定められています。いわゆる「法定耐用年数」と言われるものです。その中で鉄筋コンクリート(RC)造りの住宅用建物は47年とされています。建築後47年を経過した建物でも、未だに現役というものも少なくありませんが、軍艦島の姿を目にすると、果たしてこの耐用年数が妥当なのかどうかという疑問も抱かざるを得ません。法定耐用年数は、あくまでも課税所得を計算する上での一つのフィクションであり、実際の物理的寿命や経済的寿命とは異なるのが現実なのです。
一方で、近年の建築技術等の向上により、47年以上使用可能なRC建築も珍しくなくなっています。適時適切な維持管理や修繕を行えば100年近く使用される事例も存在します。逆に、軍艦島のように過酷な環境下に放置された場合、半世紀も経たないうちに廃墟化が進むのも現実です。事実、軍艦島への上陸は限られた人数で限られたツアーガイドの指示に従うことでしか上陸が許されていません。なにしろ、いつ突然崩壊してもおかしくない建物ばかりなのですから、やむを得ない措置といえます。つまり、耐用年数とは単に物理的な経年劣化だけではなく、利用状況はもちろん立地環境や維持管理の精度などの複合的要素によって大きく変わるのです。
こうした実情を踏まえると、「法定耐用年数47年」という一律の基準が、多様な環境や建築事情に合致しているとは必ずしも言い切れません。固定資産税も含めた徴税現場における課税の公平性や行政事務の効率性という面からは一律の基準の必要性を否定しませんが、実態と乖離した数値が税務のみならず経営判断そのものを誤らせる恐れがないとは言えません。軍艦島の光景を目の当たりにして、耐用年数のあり方はどうあるべきかという思索に耽っていたのですが、傍らでは同行の女性スタッフ達が廃墟アパートを背景に無邪気に写真撮影に興じていました…