筆者にとっての夏休みの宿題は、2007(平成19)年に上梓した「借手のためのリース会計と税務50問50答」の改訂作業でした。昨年、リースに関する会計ルールが改正されたことを受けて、同書の内容見直しが不可避になったからです。旧基準は「リース取引に関する会計基準」というタイトルでしたが、新基準では「リースに関する会計基準」になりました。タイトルから単に「取引」の二文字が消えただけですが、実は大きな意味があります。従来は、リースを「取引の一つの種類」と捉えて会計処理を考えていましたが、今後は「リースそのもの」が企業の財政状態に与える影響を反映する必要があると考えたのです。
改正の背景は、世界的な会計ルールと足並みを揃えることにありました。国際会計基準では、リース契約を結んだ時点で「借りている資産」と「支払う義務」を貸借対照表に計上することになっています。例えば、オフィスや機械をリースした場合、単に「毎月の支払額」を費用処理するのではなく、「その資産を使う権利」と「対価を支払う義務」を両建てで貸借対照表に表示するのです。これによって会社の実際の財政状態を「見える化」しようというわけです。
しかし、新基準を適用するとなると、会社は契約ごとに計上するべき資産や負債の額を計算しなければならず、手間やコストがかかります。新基準が強制適用されるのは上場会社等に限定されるとはいうものの、煩雑な作業が増えることが課題になるでしょう。また、財務諸表の読者目線からは、従来よりも資産と負債が膨らむことになりますから、「財政状態が悪化したのではないか」と見えてしまう可能性もあります。この点、財務諸表の作成者である経営者は、従来以上に説明責任を尽くして情報を正しく伝える努力が必要になります。
結局のところ、今回の改正は「リースをどう処理するか」から「リースをどう見せるか」へと考え方を転換したものだといえます。タイトルが「リース取引」から「リース」へと二文字削除でシンプルになったのも、その表れです。これからは、会社がどのようにリースを利用し、その実態をどのように情報公開しているのかが問われることになります。会社側はもちろんですが、投資家や取引先といったステークホルダーの側にとっても、財務情報の見え方に影響を及ぼす大きな改正であることを理解しておきたいところです。