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2026.10.05|前CEOコラム

あなたのことは、あなたよりデータのほうが知っている ~前CEOコラム[もっと光を]vol.348

 「あなたのことを一番よく知っている人は誰ですか?」と聞かれたら、たぶん家族や友人の顔が思い浮かぶでしょう。ところが、別の答えもあります。それは、スマートフォンやネット通販、クレジットカードなどに残された「データ」です。いつ何を買ったか、どこへ行ったか、何を検索したか。本人さえ忘れていることまで、データは覚えています。そして今、そのデータをAIが読む時代になりました。便利な一方で、少し不安がよぎる話でもありますが、私たちは、自分でも気づいていない自分の姿を、データを通してAIに見られているのです。

 

 実は、税務の世界でも同じことが起こっています。先月24日、国税当局の業務基盤が「KSK」から「KSK2」へと進化しました。1995年に導入が始まったKSK(国税総合管理)は、2001年に全国展開を終え、2004年にはe-Taxが全国運用に入りました。そして今回のKSK2では、紙を介した事務からデータを直接使う事務へとシフトし、税目ごとに分かれていたデータベースやアプリを統合し、蓄積された情報を検索・照合・再利用できる仕組みへと変わります。さらに、国税当局ではすでにAIを使って、申告・決算情報や過去の調査事績などから、申告漏れのリスクを分析する取り組みも行われています。つまり、税務の世界でも「人間が紙を見る」から「AIがデータを見る」へと、静かに景色が変わり始めているのです。

 

 ただし、ここで注意しておきたいのは、AIが「怪しい」と判断したからといって、それがそのまま申告誤りや不正を意味するわけではないということです。AIが示すのは、あくまで「ここを確認してみてはどうか」という着眼点です。最後に事実を確かめ、事情を理解し、判断するのは人間です。考えてみれば、これは税務だけの話ではありません。AIは大量のデータをつなぎ、数字を比べ、異常を見つけることができます。しかし、その数字の背後にある「なぜ」を知っているとは限りません。数字が合っているかだけでなく、なぜその数字になったのか。なぜその判断をしたのか。そこまで説明できるのは、まだ人間の仕事です。

 

 AIが進歩すると、人間の仕事が奪われるという話をよく耳にします。しかし、なくなるのは「仕事」そのものというより、仕事の中にあった「作業」なのです。入力する、転記する、検索する、照合するといった作業は、AIに任せれば良いのです。その分、人間は、データの背後にある事実を確かめ、判断し、その理由を説明する役割を担うのです。言い換えれば、「データはAIにつなぐ。事実は人間が確かめる。判断と説明は人間が担う」という役割分担です。自分のことをデータのほうがよく知っている時代だからこそ、最後に人間に残るのは、数字を読むことではなく、数字の向こう側にある事実を見極めることなのだと思います。

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