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2025.11.04|CEOコラム

未熟で未完な税法 ~CEOコラム[もっと光を]vol.300

 2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、「人類が自然現象を本当に理解しているのは、せいぜい1%か2%にすぎない」と語っています。私たちは日常生活の中で自然を当たり前のように受け入れていますが、その仕組みの多くはいまだ解明されていない未知の領域にあります。それを「神の領域」と言ってよければ、科学者たちは神に少しでも近づこうと日夜探究を続けているのです。

 

 もちろん、科学の目的は神を証明することではなく、自然や生命の「なぜ」を明らかにすることです。その過程で見えてくる構造の美しさや緻密な仕組みは、単なる偶然の産物ではなく、どこか必然的な調和を感じさせます。科学の進歩は神秘を解き明かす営みであると言ってもよいでしょう。先月、ノーベル医学賞を受賞した坂口志文氏が発見した制御性T細胞の研究は、免疫の働きを絶妙にコントロールする人体の仕組みを明らかにし、まるで神の設計図の一端を垣間見たかのようでした。

 

 ところで、このような人類の知的探究をたたえるノーベル賞には、所得税法上も特別な扱いが認められています。所得税法第9条第1項第13号ホでは、「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」を非課税と定めています。つまり、ノーベル財団の基金から交付される賞金は所得税の課税対象外です。科学の進歩に寄与した知の成果に課税しないという判断は、科学に対する税法の敬意の表れにほかなりません。

 

 もっとも、経済学賞の賞金はスウェーデン国立銀行の基金から支払われるため、上記の非課税規定に該当しないとされています。つまり、同じノーベル賞でありながら、経済学賞は課税対象となるのです。幸いにも、これまでノーベル経済学賞を受賞した日本人はいないため、問題は顕在化していませんが、科学への敬意を表すという趣旨からすれば、著しく不合理な取り扱いと言わざるを得ません。税法は、神の設計図のような構造の美しさや緻密さにはほど遠く、いまだ未熟で未完な制度なのです。

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