今から26年前に名古屋で起きた主婦殺人事件の容疑者が先ごろ逮捕されました。事件の動機が不可解で違和感を拭えませんが、長い年月を経ても捜査を続けた関係者の努力が実を結んだ結果です。殺人罪の時効は15年前の2010(平成22)年に廃止されましたが、今回の逮捕はその制度改革がもたらした成果の一つといえるでしょう。「時間が経てば罪を問えない」という壁に阻まれることなく、真相究明を可能にした象徴的な事例です。
時効、つまり「時間の効果」という仕組みは、私たちの日常生活にも無関係ではありません。法律の世界では、権利や義務がいつまでも未確定のままでは社会の秩序や安定は保たれません。そこで、法律は時間に節目を設け、紛争や義務の整理を可能にします。時効は「忘れるため」ではなく、「整理して前に進むため」の制度といえるでしょう。時間を枠組みとして活用することで、社会は落ち着きを保ち、秩序が維持されるのです。
こうした発想は、私たちの身近にある会社法や税法にも広く取り入れられています。会社法では、取締役の責任追及には期間が定められ、民法上の債権・債務も一定期間が過ぎると時効により消滅します。税法の世界でも、課税できる期間は原則5年(不正がある場合は7年)とされています。納税者が払いすぎた税金を取り戻す「更正の請求」も5年以内に行う必要があります。これらは「除斥期間」と呼ばれ、途中で期間が中断・停止することのない、より厳格な期限の仕組みです。いずれも公平性と法的安定を確保するために不可欠なルールといえます。
私たちは普段、時効や除斥期間を意識することはあまりありません。しかし法律の世界では、「時間」が常に制度の背景にあります。「いつまでに何ができるのか」を知ることは、権利を守り、思わぬトラブルを避ける上で大切です。今回の名古屋事件は、時を超えて真実を追い続けた人々の姿を通じて、法が時間とどのように向き合っているのかを考えさせる出来事でした。法が刻む時間は、私たちの日常の中にも、静かに、しかし確実に流れているのです。