2025年11月14日、ソフト99コーポレーションが進めていたMBO(Management Buyout:経営陣・創業家による自社株買収)は、応募株数が下限に届かず不成立となりました。この結果は、市場が提示価格の妥当性に強い疑問を抱いていたことを象徴しています。そもそもMBOが検討された背景には、上場会社としての制約を避け、創業家主導で機動的な経営を実現したいという狙いがありました。しかし、買付価格がPBR(株価純資産倍率)1を下回る水準であったことから、少数株主に十分なプレミアムが提供されていないという懸念が広がっていました。
この状況を大きく変えたのが、シンガポールに拠点を置く投資ファンドによる対抗TOB(Take-Over Bid:株式公開買付)です。MBO側が提示した2,680円に対し、投資ファンドは4,100円という大幅な上乗せ価格を提示し、少数株主の利益を守る観点からMBO案に異議を唱えました。また、ソフト99コーポレーションと関係の深い取引先が当初のMBO応募意向を撤回し、対抗TOBへ応募したことは、市場がどちらの提案をより公正と見なしたかを象徴する出来事だったといえます。会社側も最終的には中立姿勢に転じ、判断を株主に委ねる状況となりました。
結果としてMBOは不成立となり、対抗TOBが成立しました。投資ファンドは議決権ベースで約36%を保有する筆頭株主となり、ソフト99コーポレーションのガバナンスは新たな局面へと移行しました。創業家による非公開化というシナリオは実現しませんでしたが、市場は企業価値をより高く評価した側を選び、株主利益を最大化する方向で決着したといえます。
今回の一連の動きは、MBOを進めるうえで「価格の公正さ」と「手続の透明性」がいかに重要であるかを改めて示しました。同時に、外部株主が積極的に関与することで経営陣の自己目的化を防ぎ、企業価値が守られることも明らかになりました。ソフト99コーポレーションの事例は、経営者・株主・市場という三者が緊張関係の中で鼎立し、その相互作用によって企業の針路が決まっていくという、現代の資本市場の力学を如実に示す教訓として記憶にとどめたいと思います。