先週7月31日、読売、朝日、毎日、日経、産経の全国紙5紙は、食料品の消費税率を2027年4月から2年間、8%から1%へ引き下げる首相方針を、そろって社説で批判しました。政治的立場の異なる新聞がここまで足並みをそろえるのは、この政策の欠陥が思想以前の問題だからでしょう。消費税減税を「私自身の悲願」とまで語った首相の姿を見て、思い浮かんだのは妖怪人間ベラの「早く人間になりたい」という叫びでした。もっとも、ベラの願いは人間らしく生きたいという切実なものでしたが、首相の悲願は「いつまでも人気者でいたい」という願望でしかありません。政策の衣をまとった、あまりに露骨な人気取りです。
確かに、この減税は幅広い所得層に恩恵を及ぼします。しかし、それが長所とは限りません。生活に窮する世帯の茶碗一杯の米にも、富裕層が買うキャビアやトリュフにも、同じ7ポイントの減税が及びます。そして、購入額が多いほど減税額も膨らみます。政府は中低所得者への所得連動給付も組み合わせると説明しますが、富裕層にも多額の減税が及ぶ事実は変わりません。困窮者支援を掲げながら、「みんなに配る」という最も安易な方法を選んだにすぎないのです。
財源についても無責任です。消費税は年金、医療、介護、子育て支援を支える社会保障財源です。それを削りながら、穴埋めは歳出改革や租税特別措置の見直しで賄い、具体策は予算編成で示すというのですから、もはや政策ではなく空手形です。しかも2年後に8%へ戻せば、「7ポイントの大増税」と批判されるのは目に見えています。減税の拍手は自ら受け、復元の批判は後継政権に委ねる、そんな構図すら透けて見えます。減税を言い出す軽さはあっても、元に戻す重さを引き受ける覚悟は感じられません。
妖怪人間ベラは、恐ろしい姿をしていても、人間を守ろうとする良心と正義感を持っていました。自分が望む未来のために、子や孫へ請求書を回すようなことは決してしなかったでしょう。物価高に苦しむ人を助けるなら、広範な減税ではなく、本当に支援を必要とする人へ的確に届ける政策を考えるべきです。広く薄い減税を優しさに見せかけ、その負担を将来世代へ先送りするのは、責任ある政治とは言えません。似ているのは容姿だけですが、そう言ってはベラに失礼です。比べるほどに、良心も責任感も妖怪人間の方が上なのです。