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スタッフコラム

東京事務所
2023.03.20|税制改正

少額な返還インボイスの交付義務免除-振込手数料の場合

2023年(令和5年)10月1日から、いよいよインボイス制度が開始します。
この制度では、インボイスの交付や保管のための事務負担が増大することが心配されています。そこで今回は、事務負担を軽減させるための支援措置として用意された「少額な返還インボイスの交付義務免除」のうち、振込手数料の処理に焦点を当ててみます。

1.返還インボイスとは

 インボイス制度開始以降は、売手が値引きや返品、リベートの支払い等の売上の返還を行う場合にも、値引き等の金額の消費税額などを記載した書類を買手に交付する義務が生じます。

 この書類を適格返還請求書(返還インボイス)といいます。

2.支援措置が設けられる前の問題点

 返還インボイスが必要とされるケースの一つとして、売手が負担する振込手数料を売上値引きとして処理するものがあります。

 振込手数料については、売買取引の決済において契約で売手負担と決めていない限り買手(振込側)が負担することとされていますが、実際には、請求書に「買手負担」と明記してあっても、買手の都合により支払手数料相当額を売手負担として差し引かれて振込まれることが多いようです。この場合、売手は振込手数料を売上値引きまたは支払手数料で処理することになります。

 売上値引きで処理する場合には、1回あたり数百円の振込手数料のために返還インボイスを交付しなければならなくなり、振込手数料を負担したうえに返還インボイスを交付する売手にはかなりの事務負担が生じることが懸念されていました。また、返還インボイスを保管する買手にも事務負担が生じることになります。

 この点は、インボイス制度開始を前にして、お客様の会計や税務に関わる私どもにとっても頭の痛い問題でした。

3.「少額な返還インボイスの交付義務免除」の支援措置で解消されること

 この問題点に対して企業の実務面に配慮し、2023年度(令和5年度)の税制改正で支援措置が設けられることになります。

 具体的には、振込手数料のように少額で多数の返還インボイスを交付する売手の事務負担を軽減するために、1万円未満の少額な値引き等については返還インボイスの交付が免除されることになります。

 これにより、振込手数料の他にも、例えば小売店の店頭等での少額商品の返品等についても、事務負担の問題が解消されます。

 なお、改正法案は現在参議院において審議中で、3月中に可決成立する見通しです。

4.「少額な返還インボイスの交付義務免除」のポイント

<適用対象者>

〇適用対象者は、法人・個人の別や売上規模などの制限はなく、全ての企業が対象です。

<適用期間>

〇適用期間の期限はなく、恒久的な措置です。

<少額の判定>

〇「税込」で1万円未満の返品、値引き、割戻し等に適用されます。

5.売手が負担する振込手数料の処理の具体例

 商品の取引額が10,000円で、振込手数料220円を売手が負担する場合、売手が振込手数料を売上値引きで処理するか支払手数料で処理するかによって、会計・税務処理や事務負担は以下のようになります。

 

(1)振込手数料を売上値引きで処理する場合

売手側の仕訳

借方

貸方

科目

金額

税区分

科目

金額

税区分

預金

9,780円

不課税

売掛金

10,000円

不課税

売上値引き

220円

返品、値引き等

 

 

 

 売手側が220円の返還インボイスを交付して買手側に交付する必要がありましたが、交付義務免除の新設により、売手側は返還インボイスを交付する事務負担が、買手側は受け取った返還インボイスを保管する事務負担が無くなります。

 

(2)振込手数料を会計上は支払手数料とし、消費税法上は対価の返還等とする場合

売手側の仕訳

借方

貸方

科目

金額

税区分

科目

金額

税区分

預金

9,780円

不課税

売掛金

10,000円

不課税

支払手数料

220円

返品、値引き等

 

 

 

 勘定科目を支払手数料で処理する場合でも、消費税法上の税区分を対価の返還等(返品、値引き等)として取り扱うことで返還インボイスが不要ということが示されています。これにより(1)と同様に返還インボイスを交付する負担が無くなります。

 この方法で処理する場合の要件については、財務省Q&Aに具体的に示されていて、要点は次のとおりです。返還インボイスの交付と比べたらハードルがとても低くなりました。

〇売上値引きとして処理する場合には、売手の対価の返還等の元となった取引の適用税率による必要があること。適用税率が判然としない場合には合理的に区分する必要があり、このケースとしては標準税率と軽減税率が併存する場合が想定されます。

〇帳簿に対価の返還等に係る事項を記載し、保存する必要があること。具体的には、その支払手数料を対価の返還等として取り扱うことを会計ソフトの要件設定やコード表、消費税申告の際に作成する帳票(消費税の集計表)等により明らかにするのであれば、問題ありません。

 これまで買手によって差し引かれる振込手数料相当額を支払手数料として処理していた企業にとっては、この方法を選ぶことで従前からの会計処理の継続性が保たれます。

 

(3)振込手数料を支払手数料(課税仕入)で処理する場合

売手側の仕訳

借方

貸方

科目

金額

税区分

科目

金額

税区分

預金

9,780円

不課税

売掛金

10,000円

不課税

支払手数料

220円

課税仕入

 

 

 

 売手が負担すべき振込手数料については、振り込んだ買手が立替えて金融機関へ支払い、それを代金の支払いの際に相殺して精算したという考え方があります。この立替払いの精算の考え方によれば、売手は買手が金融機関から受領した振込サービスに係るインボイスと立替金精算書の交付を受け、これを保存する必要があるという、考えただけで気が遠くなる事務負担です。

 なお、1万円未満の課税仕入れの場合に適用される少額特例(※)では上記インボイスの保存は不要なので一見良さそうな方法ですが、期間限定で適用される少額特例はいずれ見直しが必要です。

 

(※)少額特例:2年前(基準期間)における課税売上高が1億円以下(または上半期の課税売上高が5千万円以下)の企業については、1件あたり1万円未満の課税仕入についてはインボイス不要とする措置。対象期間は2023年(令和5年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日。

6.まとめ

 インボイス制度導入による事務負担の増大については心配が尽きませんが、あふれる情報に惑わされずに冷静に対応することが大切です。ここで取り上げた振込手数料の処理については、少額な返還インボイスの交付義務免除の登場によりかなり負担が軽減されることになりました。

 支援措置とはいえ、制度開始まで1年を切ったタイミングでのルール変更は、従前のルールで準備を進めていた企業に対して、結果として無用の事前対策を強いてきたことになります。

 

<参考>

財務省 インボイス制度の負担軽減措置(案)のよくある質問とその回答(2023年(令和5年)1月 20 日時点)

(文責:東京事務所 力武)

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