1. 令和8年度税制改正の共通テーマ
令和8年度税制改正では、「経済実態を反映した課税」という考え方がこれまで以上に色濃く反映されています。
近年、所得の種類や財産の評価方法の違いにより、同程度の資産規模や担税力を有する場合でも税負担に差が生じるケースが指摘されており、政府は課税の公平性の確保を重要な政策課題として位置付けています。
今回の制度改正では、所得区分や財産評価方法の違いによって生じる税負担の差異を縮小し、経済実態をより適切に反映した課税へ見直す方針が示されています。所得税と相続税の双方において制度の見直しが行われており、オーナー経営者や地主の方々など、富裕層においては今後の資本政策や資産承継にも影響を及ぼす可能性があります。
一方で、制度の適用は資産構成や所得内容など個別事情によって異なるため、すべての納税者の税負担が増加するものではありません。改正内容を正しく理解した上で、自社や個人の資産構成・所得状況等を踏まえ、早期に影響を確認しておくことが重要です。
2. 富裕層ミニマムタックス強化【所得税】
所得税では、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(富裕層ミニマムタックス)」の見直しが実施されます。
その背景には、いわゆる「1億円の壁」と呼ばれる現象があります。現在の税制では、給与所得などは累進課税で最高税率45%が適用される一方、株式譲渡益や配当所得などの金融所得は約20%の分離課税であるため、高額所得者ほど金融所得の割合が高くなり、実効税率が相対的に低下する現象が指摘されてきました。
今回の改正では、現行における本制度の「適用要件」や「税額計算の方法」等を見直すことで、従来よりも踏み込んだ税負担の不均衡是正が図られます。したがって、従来の制度対象となる方よりも、より広い範囲の納税者が適用対象となり、負担する税額も増加する可能性があります。
特に創業者等による株式売却やM&A、国外転出時における課税(有価証券等)が適用される場合など、多額の譲渡所得が発生する場面では、実行時期や売却方法などの資本政策の内容によって、改正による影響を大きく受けることになります。
3. 貸付用不動産等に関する相続税評価の見直し【相続税】
相続税では、「貸付用不動産」および「不動産小口化商品」に係る評価方法の見直しが実施されます。
本改正は、貸付用不動産等について、市場価格と相続税評価額との乖離を縮小し、課税の公平性を確保することを目的としています。従来はこの乖離を是正するため、財産評価基本通達総則6項(著しく評価が不適当と認められる場合の評価)による個別判断が示される場面もありましたが、今後は評価ルールを制度上明確化する方向性となっています。
「貸付用不動産」については、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の不動産を対象として、通常の取引価額(時価)に一定の補正を加えた価額により評価する方法が導入される予定です。ただし、長期間保有してきた土地などについては経過措置が設けられています。
「不動産小口化商品」については、取得時期にかかわらず、通常の取引価額(時価)に相当する金額により評価する方法が導入される予定です。
保有する資産の内容によって影響は異なりますが、既存の相続対策についても改正による評価額への影響を試算し、必要に応じて専門家へ相談することが望まれます。
4. 非上場株式評価の見直しに関する議論の動向
非上場株式の評価方法については、令和8年度税制改正として改正が決定した事項ではなく、現在、有識者会議において見直しが議論されています。
議論の背景には、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の評価額の乖離や、配当還元方式など長年大きな見直しが行われていない評価方法に対する課題があります。会計検査院においても評価方法による税負担の差異が指摘されており、課税の公平性や企業価値との整合性を高める方向で検討が進められています。
ただし、具体的な見直し内容や施行時期は現時点では決定していません。そのため、事業承継等を予定している場合には、現行の評価方法を前提としながらも、改正の動向を継続的に確認することが重要です。
今後の評価方法の見直しが、仮に評価額が上昇する方向で見直された場合、事業承継や経営判断に大きな影響を及ぼす可能性があるため、今後の税制改正の動向を注視しつつ、必要に応じて税理士等の専門家と相談しながら対応を検討することが望まれます。
(文責:広島事務所 塩田)
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