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スタッフコラム

京都事務所
2026.02.02|経営

ベテランの“勘と経験”をAIに継承させる次世代の組織論

「あの人が辞めたら、現場が回らなくなる」、「新人が一人前になるのに、どうしても3年はかかる」これらは多くの中小企業経営者様から伺う、最も切実な悩みの一つです。
いわゆる「業務の属人化」です。
特に、創業期から会社を支えてくれたベテラン社員の頭の中にある「勘と経験(暗黙知)」をどう引き継ぐか。
これは単なる教育の問題ではなく、事業の存続に関わる経営課題です。経済産業省の『DXレポート』においても、ブラックボックス化した業務プロセスがもたらす経済損失リスク、いわゆる「2025年の崖」として強い警鐘が鳴らされてきましたが、今まさにその「崖」を乗り越えられるかどうかの正念場を迎えています。
しかし、朗報があります。 生成AIのトレンドは今、単なる文章作成から「社内マニュアルの自動化・高度化」へと急速にシフトしています。 AIを「新人教育係」兼「社内の知恵袋」として活用することで、属人化の解消に成功する企業が増えているのです。

1.「背中を見て覚えろ」はもう通用しない

従来、マニュアル作りが失敗する最大の理由は「作るのが面倒だから」でした。ベテランには時間がなく、結局「口頭伝承」や「背中を見て覚える」スタイルになり、技術が形式知として残りません。

生成AIは、このボトルネックを解消します。

  • 「話すだけ」でマニュアル化
    ベテラン社員にインタビューし、その録音データをAIに渡すだけ。「この内容を新人向けの作業手順書(Step-by-Step)にまとめて」と指示すれば、数秒で構造化されたマニュアルが完成します。
  • AIが「即答する相談相手」になる
    さらに進んだ活用法として、自社専用のAI環境(RAG:社内知識を検索して回答する仕組みなど)に、過去のトラブル対応履歴や技術資料、日報をすべて読み込ませておきます。
    すると、新人が現場で「機械から異音がするのですが」とスマホでチャットを打てば、AIが「過去の事例では、〇〇部品の摩耗が原因の8割です。まずはマニュアルのP.12にある点検項目を確認してください」と、まるでベテランが隣にいるかのように即答します。

これにより、ベテランは同じ質問に何度も答える必要がなくなり、新人は待ち時間なく自己解決できるようになります。

2. AIによる「スキル格差」の解消

この効果は、データでも証明されています。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究によると、生成AIを使用した労働者は、そうでない場合に比べてタスクの完了時間が37%短縮され、成果物の品質評価も有意に向上(0.45標準偏差分のスコア上昇)しました。

この研究で特筆すべきは、「もともとのスキル評価が低かった社員ほど、AIを使うことでパフォーマンスが劇的に向上し、トップ層との格差が縮まった」という点です。AIがアイデア出しや編集作業を代替・補完することで、個人の能力差によるパフォーマンスのばらつきを一気に埋めることができるのです。これが「最強の新人教育ツール」と呼ばれる所以です。

3.「形式知」に変えることが経営者の責任

AIに業務を教え込ませるプロセスは、社内の業務フローを棚卸しする絶好の機会になります。「なぜそうするのか?」をAIに説明できなければ、それは業務フロー自体が整理されていない(属人化している)証拠だからです。

  • 日報の資産化
    毎日書かれる日報をAIに読み込ませ、月次で「よくあるトラブル集」を自動生成させる。
  • 電話対応の教材化
    優秀な営業マンの商談録音をAI分析させ、「切り返しトーク集」を作る。

これらは、高額なシステムを入れずとも、明日から着手できることです。特定の「個人」についてしまった技術は尊いものですが、経営としては、それを「会社(仕組み)」に残さなければなりません。

4. 生成AI活用における「セキュリティと情報の取り扱い」

業務で生成AIを活用する際、避けて通れないのがセキュリティの問題です。

MITの研究における追跡調査でも、仕事でChatGPTを使用していない層からは、その理由として「顧客に特化した情報や、自社固有の製品情報を扱うため(文脈依存性が高く、外部ツールに入力しにくい)」という懸念の声が挙がっています。

「ベテランの暗黙知」は、まさに企業の競争力の源泉であり、流出させてはならない機密情報です。したがって、導入にあたっては以下の対策が不可欠です。

  • 入力データのルール化
    公開されている無料版のAIツールなどに、顧客の個人情報や未発表の技術情報をそのまま入力しないよう、社内ガイドラインを策定します。
  • セキュアな環境の構築
    自社のデータがAIの学習に利用されない、閉じた環境(法人用プランやAPI連携システムなど)で運用することが重要です。

守るべき情報は保護しつつ、活用できる知恵は積極的にAIへ共有する。この「守りと攻め」のバランス設計こそが、持続可能なDXの鍵となります。

5. まとめ

生成AIは、ベテランの知恵を24時間いつでも引き出せる「永遠のアーカイブ」にするためのツールです。「あの人がいないと分からない」という恐怖から解放され、誰もが高いレベルで仕事ができる組織へ。

まずは、「ベテランの頭の中にある言葉」をAIに入力することから始めてみませんか。その一歩が、御社の技術を次世代へ繋ぐ架け橋となります。

また、ひかり税理士法人のDXコンサル部では中小企業の皆様に向けて、生成AIの活用を支援するメニューも備えています。

自社で生成AI導入が上手くいかない・どうしていいかわからないという経営者の皆様のご支援も承りますので、ご相談やご支援の際は、お気軽にご用命ください。

(文責:京都事務所 梅村)

参考文献

  • 経済産業省「DXレポート」(2018年・2020年追補版)
  • MIT Sloan School of Management, “Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative AI” (2023)

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