1.社員と経営層・管理職でのすれ違う想い
制度づくりの場でお話を伺うと、社員の方からは「現状維持で精一杯で、新しい役割を担う余裕がない」、「仕事にやりがいを感じられない」、「管理職に期待しても裏切られたと感じることが多かったので、もう協力する気になれない」等の声をお聞きすることがあります。
一方で、経営層や管理職の方からは「主体的に動いてくれる人がいない」、「会社を良くする提案が少ない」といったお悩みをお聞きします。
双方が不満や不安を抱え、結果として「お互いに距離を置く」状態になってしまっているのです。
このような状況では、どんなに制度を整えても「どう動けばよいかがわからない状態」ですので、組織と人が動かないことは言うまでもありません。
それは、評価制度や等級制度の仕組みが悪いのではなく、「なぜこの制度を導入するのか」、「どうなりたいのか」という目的が共有されていないまま、制度だけが先行していることも原因のひとつです。
2.チームワークの土台は『目的の共有』と『心理的安全性』
チームワークを生み出す上で欠かせないのは、『目的の共有』と『心理的安全性』です。
心理的安全性とは、「自分の意見を言っても否定されない」、「失敗しても責められない」という安心感であり、
目的の共有とは、「私たちは何のためにこの仕事をしているのか」をチーム全体で理解している状態です。
制度はあくまで『器』、『仕組み』であり、その中身を満たすのは、日々のコミュニケーションと信頼関係です。
どれほど制度を整えても、メンバーが安心して意見を出し合えず、上司が目的を語らない組織では、チームワークは生まれません。
3.制度を『対話の場』として活かす
では、どうすればチームワークを育むことができるのでしょうか。
私たちがご支援する中で有効だと感じるのは、「制度の運用そのものを、対話の機会に変えること」です。
たとえば目標設定面談や評価面談がその機会のひとつです。
企業様によっては、『評価を伝える場』にとどまっていることも多いようですが、本来は『組織の方向性を共有し、相互理解を深める場』や『社員の成長や充実感を促す意見交換の場』にとして活用できます。
面談の中で「お互いにどんなことを期待しているか」、「チームとして何を良くしていきたいか」、「成長のために取り組んでいきたいこと」等を率直に話す時間を設けます。
この小さな工夫だけでも、管理職とメンバーの間に信頼の糸が生まれます。
実際に、ある企業では人事制度の改定に合わせて「双方向フィードバックの時間」を導入しました。
上司からの評価を伝えるだけでなく、部下からも上司に対する意見を伝える場を設けました。
最初は戸惑いもありましたが、半年ほど経つと「上司が自分の意見を聞いてくれるようになった」、「チームでの話し合いが増えた」という声が上がり、業務改善の提案も活発になりました。
制度が『評価のための仕組み』から、『関係性を育み、組織が前進するための一歩』へと変わった瞬間でした。
4.制度を活かす“人”を育てる ― 管理職研修の重要性
こうした「制度を対話の場として活かす」ために、近年では管理職研修を継続的に実施する企業も増えています。
私たちへのご支援のご依頼も、単発の研修よりも「制度運用と連動した管理職育成」や「段階的にマネジメントスキルを向上させる継続的な管理職研修」が大幅に増えています。
マネジメントについて学んだことのある企業もあれば、マネジメントは初めて学ぶという企業もあり、背景は様々ですが、共通していることは「現状維持ではなく、組織を変革して、会社を持続的に成長させたい」という前向きな危機感です。
研修の場では、マネジメントの基本から、目標の浸透、上司としてのコミュニケーションの取り方や、部下の成長を支援する面談スキル、フィードバックの方法、チームビルディングなどを体系的に学びます。
そして、学びをそのままにせず、実際の制度運用の中で試行・振り返りを繰り返すことがポイントです。
この「研修での学び」と「制度での実践」が結びつくことで、管理職一人ひとりのマネジメント力が着実に高まり、組織全体のチームワークが底上げされていきます。
制度を生かすのは“人”であり、特に管理職の関わり方が組織文化を決定づけます。
継続的な学びと実践のサイクルを組み込むことが、制度を真に機能させ、組織力を高める鍵と言えるでしょう。
5.チームワークは「日常の選択」から生まれる
チームワークという言葉は、特別なプロジェクトやイベントを想起させるかもしれません。
しかし本当のチームワークは、日々の小さな選択の積み重ねから生まれます。
「少し手を差し伸べる」「相手の考えを聞いてみる」「目的を確認し合う」――そうした一つひとつの行動が、組織の一体感を形づくっていきます。
そして、その行動を支えるのが制度です。
制度が人を動かすのではなく、人が制度を通して関係を深めていく。
その視点で制度を『真に』運用することこそが、これからの人事のあり方だと感じます。
6.おわりに
チームワークを高めることは、単に仲の良い職場をつくることではありません。
異なる立場や価値観を持つ人同士が、共通の目的に向かって力を合わせること。
そのためには、「相手を理解しようとする姿勢」と「安心して意見を交わせる関係性」を育てることが欠かせません。
制度の構築や見直しは、そのきっかけを生み出すための手段です。
そして、制度をどう“使う”かは、組織の文化次第です。
ひとりひとりが日々の対話を大切にすること――それこそが、チームワークの本質ではないでしょうか。
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(文責:京都事務所 組織人事コンサル部 熊洞)
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