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スタッフコラム

札幌事務所
2023.04.24|会計

AIが税理士の仕事を奪う?AIが税理士に与える影響とは

近年は技術の進歩が著しく、人が行っていた仕事をAIが代替し始めています。そんな中、税理士も例外ではなく、AIによってなくなる仕事の1つと言われています。では、本当に税理士の業務はAIによってなくなってしまうのでしょうか。

 税理士業界に携わっていると、「AIによって税理士の仕事は将来なくなってしまう」という話を一度は耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。近年の税理士試験の受験者数が減少傾向にあるのも、このような話が世間に広まったことが少なからず影響しているものと考えられます。

 これらの内容はイギリスにあるオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン教授が2013年に発表した論文「雇用の未来(The Future of Employment)」に起因しています。論文の中でオズボーン教授は今後10~20年の間に47%もの仕事がAIによって失われると述べており、具体的には「銀行の融資担当者」や「レジ係」「電話オペレーター」などのさまざまな業務を「なくなる仕事」として挙げています。

 

 その中でも税理士に関する業務としては「簿記、会計、監査の事務員」や「税務申告書代行者」「データ入力作業員」が上位にランクインされており、これらは9割を超える確率でAIに代替されると記述されています。実際に税理士業界では、すでに会計ソフトの自動仕訳機能を通じて記帳代行業務や税務申告手続きがAIに簡略化あるいは代替され始めています。

 オズボーン教授による論文が発表され、これらの業務に携わる税理士業界は衝撃を受け、いつしか「税理士=将来性のない資格」というイメージへと一人歩きしてしまっているものと考えられます。しかし、実際にAIによって代替される業務として挙げられているものはいずれも単純作業や定型的な処理を必要とする内容が大半であり、それぞれの顧問先の事情に沿った臨機応変な対応が求められる業務ではありません。

 記帳代行業務に対する不安が「税理士不要論」のような極論へと発展しがちですが、実際には「AIが得意とする業務」と「人間にしかできない業務」を正しく理解し、それに基づいたリソースの配分が重要となります。

 

 東欧のバルト三国の一つであるエストニアは世界に先駆けてデジタル化政策を進めており、「IT国家」として注目を集めています。エストニアでは15歳以上の国民に電子証明書の所有を義務付けており、「結婚」や「離婚」「不動産売買」以外の行政サービスはオンライン上で完結します。

AI先進国であるエストニアには「税理士が存在しない」と言われています。
そのような状況に至った要因は、大きく2つに分けられます。

  • オンラインシステムの整備
  • シンプルな税制への移行

 エストニアでは2000年にe-Tax制度が導入され、現在はほぼすべての法人や個人がオンライン上で申告や納税手続きを行っています。電子証明書で国民に関するさまざまな情報がデータベースとして蓄積されており、エストニア政府は全国民の預金残高まで把握できます。徹底的にデジタル化を促進することでオンライン化に取り組み、スマートフォンで申告納税が行えるだけでなく、わずか数十分程度で会社設立が完了します。

 オンラインシステムを整備するだけでなく、エストニアでは「フラットタックス制度」を導入し、シンプルな税制への移行に取り組みました。現在のエストニアには相続税や贈与税は存在せず、主な税金としては「配当課税」「社会福祉税」「付加価値税」の3つが挙げられ、いずれの税金も所得の大小などに関係なく一定税率で計算されます。

 

 電子上で申告納税が完結する仕組みの整備だけでなく、専門的知識を持たない納税者でも簡単に税額計算ができるようなシンプルな課税制度を導入したことで、手続きを税理士に依頼する必要性が薄れていきました。

 エストニアの現状を「日本の税理士業界の未来」として捉えられますが、そのためには単にデジタル化に取り組むだけでなく、日本の複雑な税制自体を見直す必要があります。実際にはエストニアにも会計法人は存在しており、AIで代替できない会計や税務に関する各種手続きやコンサルティング業務を行っています。
「IT国家」として他国をリードするエストニアでは、単純作業や定型的な業務がAIによって自動化されることで、税理士は人間にしかできない付加価値業務に注力するという「AIとの分業体制」が進んでいます。

 

AIにはできない、税理士にしかできない業務は存在します。

 現状のAIは単純作業や定型的な処理に長けている一方で、次のとおりAIには代替できない業務も存在します。

 *顧問先とのコミュニケーション

・経営相談への対応

・経営課題に対する解決策の提案

・計画の実行支援

*専門知識を要する業務

・顧客の意向を汲み取った対応

・異なる税科目間でのシュミレーション

・複雑な税務事例に対する多角的な検証

 

 AIでは人間との意思疎通を図ることはできないため、人間である税理士が顧問先の経営者とコミュニケーションをとる必要があります。税金に関するアドバイスに加え、顧問先の経営相談を通じて潜在的なニーズを読み取り、それを解決するための改善策を練り上げることも税理士としての重要な業務の一つです。

 特に税理士は経営者にとって「最も身近なパートナー」としての役割を担うため、記帳代行業務や税務申告だけでなく、経営戦略やキャッシュフロー、人事労務など、さまざまな問題の相談窓口となる機会が多くなります。顧問先との間でこれらの経営課題を共有したうえで経営計画や事業計画を策定し、計画の実行支援を行うなど、コンサルタントとしての側面も期待されています。

 

 これらの業務はいずれも深いコミュニケーションによって成り立つものであり、そのためには顧問先との間に十分な信頼関係を構築することが必要不可欠です。

 単純作業や定型的な処理についてはAIに任せ、それによって捻出されたリソースを顧問先とのコミュニケーションに充てることにより、税理士はこれまで以上に付加価値の高い業務へ注力することが求められます。

 過去に某大手会計事務所が顧客にどのような監査担当者が望ましいか、アンケートを取り、知識よりもコミュニケーション能力が高い人材を求めるという結果が出ました。顧客が何を望んでいるか、常にアンテナをはり、我々もこれまで以上に努力しなくてはなりません。

(文責:札幌事務所 渡部)

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